「山岳域の炭素の流れを探るとは?」

 地球温暖化は近年の重要な環境問題の一つです。その主な原因は、人間活動による大気中の二酸化炭素濃度の上昇だと言われています。陸上の生態系は炭素の貯蔵庫の役割をしていて、植物や土がある森林や草原などでは、光合成と呼吸によって大気との間で二酸化炭素の交換が常に行われています(図)。この二酸化炭素の流れは、大気中の二酸化炭素の濃度、気温や降水量などの気候条件、土壌の栄養塩の条件などによって変化します。地球温暖化によって標高の高い場所で生育する植物たちは生育場所を拡大できるといわれています。一方で、土壌からの栄養供給が足りないためにうまく生長できなかったり、これまでいなかった植物が侵入してきて逆に生育環境が悪くなる、環境の変化に適応できないなど、種の存続を危ぶまれる植物もでてきます。また、地球温暖化によって土にいる微生物の活動が活発になり、土壌に蓄えられた有機炭素が分解されて二酸化炭素の放出が増え、大気中の二酸化炭素濃度の上昇を加速させ、結果として地球温暖化が進むという正のフィードバック効果も考えられます。このように、地球温暖化が山岳地域に与える影響は非常に複雑であることがわかります。植物の現存量や生長速度、光合成量、土壌へ供給される落葉・落枝量、土壌から放出される二酸化炭素量(土壌呼吸量)などを長期間に渡って観測することにより生態系内の炭素の流れが何によって影響を受けているのか、そのメカニズムを知り、植物の生き様や生態系の変化を捉えることは、生態系の役割を知る重要な手がかりになります。