「山岳域の天候変動を探る」

 山岳域の天候は、“大気固有の運動”と“山岳自体の熱力学作用”の両者の影響を受けて形成されています。大気は高所に水蒸気を輸送する重要な働きを担い、水・森林・観光資源を育む一方で、極端現象に伴う災害も引き起こします。アジアモンスーンが卓越し急峻な地形に富む日本では、人々は山に守られた低標高域で暮らしてきました。しかし、中山間地の開発と里山の放棄が進む中で、気候変化に伴う環境への順応と景観の活用方法を模索する必要が生じています。山岳気象の観測網は希薄ですが、それを補完する衛星観測や数値モデルによるデータは蓄積されつつあり、活用が望まれています。フィールドで養った直感と問題意識をもって、複雑系の変調の仕組みを定量的に解き明かすために、大気科学の基礎を身に着けることは極めて重要です。そもそも水蒸気量が少ない高所でどのように多量の降水が生じるのか。これらは将来、高所の積雪を増加させるのか大雨が流出を加速するのか。山岳斜面を覆う森林や積雪は局地気候の形成にどのような役割を担っているのか。分からないことは沢山あります。大気陸面相互作用の観点から、山岳域で進行する天候変調の正しい理解と社会・生活との関わり方を、皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。

担当授業:山岳科学概論A、山岳気象学

 参考文献:渡辺悌二、上野健一(翻訳)、2017:山岳、サイエンスパレット、丸善、p176.

写真:八ヶ岳を背景とした気象観測