「火山地域に特徴的な土砂災害:2013年伊豆大島の事例」

 近年,気象状況の変化等により,国内の各所で甚大な土砂災害が立て続けに生じています。降雨を引き金とする崖崩れ等の斜面の土砂移動は,斜面内部の地盤条件と水の挙動の相互作用の結果として生じるため,その発生形態や危険雨量(崩壊を引き起こすような降雨パターン)は地域ごとの地盤条件である地質によって大きく異なる可能性があります。ここでは,2013年に伊豆大島において発生した土砂災害を事例としてその一端をご紹介します。

 2013年10月の台風26号によって,伊豆大島の三原山西側斜面では24時間雨量が800mmを超える豪雨(気象庁大島アメダス)に見舞われ,10月16日にこの斜面に位置する大金沢の源頭部において広範囲の崖崩れ(表層崩壊)が発生しました(写真-1,2)。その崩壊深は0.5~2mで,多くが1m以浅でした。一般に,山地斜面では降雨の大部分は鉛直浸透後,基岩上において飽和側方流となり谷部へ集水されます。このため表層崩壊は0次谷と呼ばれる谷筋に沿って発生します。ところが,当該斜面では火山の活動期に供給される火山降下物であるテフラ(火山灰およびスコリアを含む)層と休止期に堆積するレス層の互層構造(写真-3)が少なくとも厚さ数mにおよんでおり,土層深部まで明確な基岩が存在しません。また,土壌の透水性が高いため浸食による谷地形が未発達な斜面となっています。このような斜面では谷部への集水は起きにくいため,大金沢で発生した表層崩壊は一般的な表層崩壊と異なるプロセスで発生した可能性があります。崩壊が広範囲にかけて斜面上部から発生するという通常の表層崩壊とは異なる発生形態からもその可能性が示唆されます。

 大金沢の崩壊は,ほとんどの場合にレス層の直上をすべり面として崩壊しており,基本的な崩壊発生プロセスとしては,テフラ層に比べて粒度の細かいレス層の透水性が相対的に低いために鉛直浸透した雨水がレス層直上において飽和帯を形成し,レス層の上面をすべり面としてそれ以浅の土塊が不安定化するというプロセスが斜面地盤内で生じていたのではないかと考えられます。国内では,同じく火山性の地域である阿蘇山でも2012年7月(九州北部豪雨)に同様の表層崩壊が発生しており,このような表層崩壊の発生メカニズムは火山地域にある程度共通する可能性が考えられます。

写真-1:三原山西側斜面の表層崩壊
写真-2:三原山西側斜面の表層崩壊
写真-3:三原山西側斜面の土層断面(明るい茶色層がレス層)

参考文献

山川陽祐ら(2019):伊豆大島における斜面の土層構造・水文プロセスの観測,砂防学会誌,vol. 71,No. 5,70-75.