「山岳域で地域研究を行う」

 山岳科学学位プログラムでは社会科学や人文科学の分野で修士論文に取り組むこともできます。私たちは、山岳域における社会の成り立ちや住民の暮らし、地域資源の管理や利用、産業構造をはじめ様々な対象について、現地での参与観察や聞き取り調査、アンケート調査等を行って収集した資料や情報を使用し、通時的変化や多様な実態等を定性的または定量的に把握・分析します。調査対象に関する先行文献や調査報告書を丹念に学び、それぞれの仮説や研究課題に応じて調査対象地を選定し、調査の対象や項目、時期等の詳細を設計し、数日から数週間、数カ月、…という滞在の中で資料や情報を得ます(写真)。あるいは、現場での五感を使った直観力・洞察力に重きを置いて長期間滞在し、その中で仮説や研究課題を見出して資料や情報を収集し、分析するという方法もあります。  一例を示しましょう。「山村に住む親の世代は山や田畑の恵みを都市部の子供たちに送り、子供たちや孫たちが喜ぶ声を聞く/顔を見るのが嬉しくてそこに住み続ける」という仮説を持ったとします。その場合には、山や田畑の恵みの内容および送る時期や量、頻度を把握し、往来や電話でのやり取りの頻度等を山村の親世代からお話を聞き、それらの分析を通じて仮説を検証します。これまでは幾つかの集落を対象に世帯悉皆の調査を行うこともされてきました。そして、こうした調査や分析を進めるうちに山村での暮らしが地域資源と密接につながり、そのつながりにより地域資源が維持され、あるいは持続可能性が向上していることも把握されてきました。

写真:地域の生物資源を調べる

 山岳科学学位プログラムにおいて、自然科学と社会科学、人文科学とを結び付けて学際的な研究を行うことも射程に入っています。学際的な研究が進むと、山岳域・社会の発展にも寄与することが期待されています。