「山岳地域のツーリズム研究」

 人びとは、さまざまなかたちで山岳地域と関係をもってきました。山岳地域は、伝統的に人びとが生きるための食料(動植物)や燃料、用材を採取する場所として不可欠でした。また山岳は、宗教の対象としても重要な役割をもっていました。ところが、最近約150年間は、ツーリズムの対象として注目されています。山岳地域が標高差を有する点、森林に覆われている点などが、さまざまなアウトドア・レクリエーションを可能としています。山岳が美的な鑑賞対象となることとも相まって、それらを楽しむために、人口の大多数が居住する大都市から人びとが山岳地域に訪れています。伝統的なレクリエーションはトレッキングですが、1900年前後にはそれにスキーが加わり、近年ではマウンテンバイクやキャニオニングなどが出現した結果、活動の多様化が進んでいます。こうした実態について、どのようなレクリエーションがいつどのように誰によって行われているのか、そうした活動を通じて山岳地域にはどのような変化が生じているのか、活動拠点としての山岳リゾートはどのような性格をもっているのかなどを地理学の立場から追究しています。その際の重要な方法論は、地域との関係を考えることです。とくに、いかなる地域的条件が作用して、山岳地域のツーリズムが成立し、またツーリズムやリゾートの性格を規定しているのかといった点に着目して考察しています。おもな研究対象はスキーリゾートで、フィールドは北海道のニセコ地域やオーストリアアルプスです。最近は、山岳リゾートとトレッキングのかかわりについて、日本とヨーロッパアルプスとで比較しながら、研究を進めています。

写真:レッヒ(オーストリア・アルプスの山岳リゾート)

参考文献

呉羽正昭(2017):『スキーリゾートの発展プロセス ―日本とオーストリアの比較研究―』二宮書店.