「水供給の視点で山の恵みを考える」

 「森が水を育む」という言葉を聞いたことがあるかと思いますが、実際には森は水を消費する存在でもあります。水供給の点で本質的に重要なのは森ではなく山です。標高が高く気温の低い山は、降水が多く、蒸発による損失が少ないのです。また、冬季の降雪を春~夏まで貯留する機能もあります。このため、欧米ではしばしば「山は天然の給水塔」と形容されています。しかしながら日本では、その事実は正確に理解されていません。
 水分子を構成する水素と酸素の同位体(2Hと18O)は内陸部や標高の高いところに降る雨ほど含有量が少なくなる傾向があるので、それをマップ化して水道水中の含有量と比較することで、水源の水がどのくらいの標高で降った雨によって涵養されたのかを調べることができます。長野県と山梨県について調べたところ、水道水源の約90%が標高1000 m以上で涵養されていることが分かりました(図)。面積では標高1000 m以上の土地がおよそ50%を占めますが、そこに居住する人は両県の人口のわずか2%に過ぎません。人が少ないので、廃棄物が不法に投棄されたり、また合法的に廃棄物処分場が作られたりすることも増えていますが、そこに降った雨や雪に多くの都市住民が依存しているのです。山の有り難さをもっと強く認識すべきでしょう。

図:長野・山梨両県における面積、人口、及び水道水源涵養の標高分布。
「Yamanaka and Yamada (2017): Regional assessment of recharge elevation of tap water sources using the isoscape approach. Mountain Research and Development, 37, 198-205.」から引用(和訳)。